固体酸化物燃料電池(SOFC)


 

燃料電池とは

 燃料電池(Fuel cell)は、低公害・高効率な発電方式として近年注目を集めており、大規模発電システムや電気自動車の動力源として実用化されつつあります。

 燃料電池は、イオンのみを通す性質を持つ電解質を、電極と燃料極・空気極で挟んだ構造をしています。電解質には、高分子、酸化物などが用いられます。燃料には水素H2を用いるものが一般的です。燃料電池の発電の仕組みを図1に示します。

燃料極   燃料電池の発電の仕組み  空気極

図1 燃料電池発電の仕組み

 燃料電池の動作原理は次のようになります。

@空気極(右側)に入った酸素O2は電極で電子を受け取り酸素イオンO2-になる。

AO2-は電解質中を移動していき、燃料極(左側)で電子を放すとともにH2と反応し水H2Oを生じる。

Bこれらの過程から結果として外部回路に電流を取り出すことができる。

 燃料電池の起電力は、酸素イオンが電解質中を移動することにより生じます。酸素イオンが移動する駆動力は、電解質の両端、すなわち燃料極と空気極の酸素濃度差です。燃料電池の特長としては、
@CO2を排出しないクリーンな発電システムであること
A化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換するため高効率であること
B稼動部が無い静的システムであること

などが挙げられます。

 

固体酸化物燃料電池(SOFC)

 固体酸化物燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell;SOFC)は、電解質として酸素イオン導電性酸化物を使用した燃料電池です。酸素イオン導電性酸化物とは、液体の電解質と同様に酸素イオンを通す性質(イオン導電性)を持つ固体酸化物です。電解質に液体でなく固体を用いることができれば、発電装置の構成が簡単化できますし、保守管理も容易になります。このため、性能の良い固体電解質材料の開発を目指し研究が行われています。

 一般に,固体酸化物はある程度の高温下でないと高いイオン導電性を示しません。現在SOFCの電解質としてイットリア安定化ジルコニア(YttriaStabilized Zirconia; YSZ)が広く用いられています。これはYSZが酸素イオン導電体であり、しかも空気極、燃料極の雰囲気で安定な物質であるからです。しかし、動作温度である1000℃においては、構成する材料に対する制約が大きく、動作温度を下げる電解質の開発が行われています。セリア系酸化物は安定化ジルコニアより酸素イオン導電率が高く、動作温度の低減化が期待されています。しかし、セリア系酸化物は燃料極側で材料の還元により電子導電性が現れます。このことは電池性能の低下につながります。そこで、電子導電性をもたない安定化ジルコニアと組み合わせて使用することが考えられています。この点で安定化ジルコニアとセリア系酸化物の複合材料の物性を知ることは非常に重要です。

 

材料特性の評価

 固体酸化物の特性を評価するには色々な手法があります。組成を変化させた酸化物を薄膜化して導電特性を直接測定したり、ラマン散乱分光により材料の構造を調べ、イオンの伝導機構や構造変化を調べたり、高温下で長時間保持し、質量の減少や構造の変化を調べることも必要です。このようにして得られたデータから、高性能な固体電解質を作るための指針を得ます。

ラマン分光装置の写真

図2 ラマン分光装置


 この他に、SOFC動作環境である高温還元雰囲気下で材質がどのような挙動を示すのかを調べるためにクリープ試験を行っています。これにより材料の機械特性が計測され、より実用的なSOFCの材料開発を行うことができます。


 また、走査型プローブ顕微鏡(Scanning Probe Microscope:SPM)により、材料の表面構造や電気的物性を調べることができます。

走査型プローブ顕微鏡の写真

図3 走査型プローブ顕微鏡

顕微鏡の探針(プローブ)とサンプル表面を数ナノ(10-9)メートルまで近づけると、双方の原子の間に力(原子間力)が働きます。これを一定に保つように図4のように走査してやると、探針の上下動からサンプルの表面の凹凸がわかるというわけです。

測定原理の図

図4 SPMの測定原理

 さらに、探針にもう一工夫することで、サンプルの表面電位なども測れるようになります。

 

研究成果

(1) 大竹隆憲,内藤均,湯上浩雄,川田達也,水崎純一郎, 電子ラマン散乱によるZrO2-CeO2系のイオン拡散特性, 第24回固体イオニクス討論会,1998年11月,仙台

(2) T. Otake, H. Yugami, H. Naito, K. Kawamura, T. Kawada and J.Mizusaki, Ce3+ concentration in ZrO2-CeO2-Y2O3system studied by electronic Raman scattering, 12th Inter. Conf. Solid State Ionics,June 1999, Halkidiki Greece

(3)大竹隆憲,湯上浩雄,八代圭司,二唐裕,川田達也,水崎純一郎, [(ZrO2)1-X(CeO2)X]0.8(YO1.5)0.2の酸素不定比性, 第26回固体イオニクス討論会,2000年11月,徳島

(4)遠藤良裕,湯上浩雄,大竹隆憲,川田達也,水崎純一郎, セリア系酸化物固溶体の機械特性, 第27回固体イオニクス討論会,2001年11月,東京